基地の町に住む No1.  KORO(コロ)
安普請のアパートの窓からは、米軍基地が見える。米軍人・軍属とその家族が住むための住宅地区である。規則正しく建ち並ぶ平屋の 白い壁、渋滞とは無縁の広々とした道路、手入れの行き届いた芝生の鮮やかな緑色を眺め て、ぼんやりと過ごす。
よく晴れた日には、遠くに東シナ海の地平線を見渡せる。景観も家賃の内だとすれば、ここは破格の安さだと言える。米軍基地の真向かいに建つこのアパートに住むようになって、10年以上が過ぎた。国際通 りまで徒歩10分という那覇の市街地で生まれ育った私が、親戚も友人も全く いない、この基地の町に引っ越してきた理由はたったひとつ。
当時つき合っていたアメリカ 人のボーイフレンドと一緒に住むためだった。彼の職場から近いことと、1LDKで2万円(月額)というバカ安の家賃が決め手と なって、ここを選んだ。「家賃2万円の部屋に住んでいる」と言うと、たいていの人は”風呂なし、トイ レ・台所共同”、あるいは ”木造トタン屋根・ぽっとん(汲み取り式)便所”を想像するよう だ。しかし予想に反して、洋式の水洗トイレを備えた専用の浴室は優に3畳はあるし、8畳のLDKに付いている流し台にはシンクが2つあって、使い勝手が良いことこの 上ない。お料理好きの女性がこのダブルシンクを見ると、必ず羨ましがる。おまけに米軍基地が出す騒音をシャットアウトするために、日本政府が無料で施工 してくれる防音工事済みなので、二重のアルミサッシ窓、冷房、換気扇まで完備してある。もちろん、建物は鉄筋コンクリート製である。「幽霊が出るんじゃないの?」あるいは「米軍のヘリコプターがしょっちゅう何かを落としていくような危険地帯 じゃないの?」と、思う人もいるかも知れない。ところが、10年以上住んでいて、霊体験など一 度もなかったし、引っ越して来た当時と比べると、米軍のヘリコプター及び戦闘機の騒音は、むしろ少なくなっているように感じる。
しかし、ここに越して来たばかりの頃、商店街で買い物をする私の頭上で、爆音を轟かせながら米軍の戦闘機が通 り過ぎて行くのを初めて見た時には、さすが に驚いた。音も確かに凄まじいのだが、もっと怖いのはその距離感である。そこら辺のビルの屋上に上って手を伸ばせば、機体に触れられるのでは?と、錯覚 するほど低空を飛んいくのだ。あれに遭遇するといまだに怖くて、心臓がドキドキする。それでも、私が住んでいる地域では、我慢できないほど騒音がひどいというわけで はないので、相変わらずここに住み続けている。生活全般にわたって特に不便を感じないし、今では親しい友人・知人もいる。何よりも、ここより条件が良くて家賃が安い部屋は、探しても何処にも見つからな かったのである。だから、これからも当分、私はここに住み続けるだろう。今は8月。日本もアメリカの学校も夏休みの最中である。
フェンスの向こう側では、美しい芝生の庭に大きなトランポリンを置いて、アメリカ人の子どもたちが、歓声をあげながら夢中で飛び跳ね、遊んでいる。  

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